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フィディック・イン / Fiddich inn

2012.05.07

 7カ所に及ぶディスティラリー・トレイルを経て、クリゲラヒーのハイランダーインに帰ってきたのが午後7時過ぎ。ちょうどオーナーのダンカンさんが表でタバコを吸っているところで、私に気付くと「ハーワーユー?」と声をかけてくれる。「悪くないよ。でも少し疲れた。今日は歩き過ぎたから」と大げさに疲れた風をみせて、一旦部屋に戻る。
 思い返せば、今日はカードゥで試飲をしたのを除けば、アルコールは摂っていない。旅に出てからここまで、酒を一滴も飲まない日なんて、ホントにないんじゃないかというくらいの日々を過ごしており、もとより酒は強くない体質ながら、だいぶ免疫もついたようで、この日もこの日とてこれから飲みにいくのである。

 まずは、ハイランダーインから道沿いに東へ向かって、スペイ川の支流である小川沿いにあるフィディックインへ。小川にかかる橋を渡ってすぐのところにあるパブです。

 こちらのパブ。前日にハイランダーインのユミさんが「パブならクエイクバーもいいけど」と言ってオススメしてくれたパブなのである。曰く「ウイスキーの種類が特別あるとかそういうんじゃないけど、雰囲気がすごくいいんだよねー。おじいちゃんが一人でやってるお店なんだけど、ホントにパブリックハウスって感じで」とのこと。
 今回の旅は蒸留所巡りがメインなのだが、もう一つ、現地のパブの空気感を味わいたいっていうのもあって、それならばそこにいかない手はないだろう、と疲れた身体を引きずって飲みにきたのです。

 私が店の前についた時、ちょうど店の中からおっちゃんが出てきて、私と目が合う。やってる?というような意味で「飲めますか?」とそのおっちゃんに訊ねてみると「オフコース」と帰ってきたので軽く手を挙げて中へ入ろうと。すると、そんな私をおっちゃんが呼び止める。なんぞ。と思っていると、おっちゃん「金は持っているよな」と。笑いながら「イエス」と答えると、右手の親指をたててウインクしてくれた。

 幸せな気分になってパブへの扉を開くと、そこには地元の方と思しきお客さんがたくさん。蛍光灯の味気ない明かりに、音楽一つかかっていない空間で、少しく臆するも、とりあえず一杯ビールを頼んで腰を落ち着ける。
 狭い空間だったが、おっちゃんばかり7人ほど集まっていて、それぞれに笑い合っているというよりかは、誰か一人の話にみんなで笑ったり話を継いだりしていて、ホントに常連さんの集まりという感じ。しばらくすると、先ほど私が表で出会ったおっちゃんも戻ってきて、私に話しかけてくれる。
 おっちゃんは犬を連れていて、店内でもその犬と一緒。このおっちゃん含め、周りのスコッツたちの話す英語はホントになにを言っているのか分からない。私に対して話しかけてくれているおっちゃんの英語は、まだなんとか分かるのだが、隣で笑い合っているおっちゃんたちの会話に耳をそばだててみても、なんのこっちゃ一切分からない。そんな時に、このワン公は都合がよくて、というのも、犬なら言語の心配をする必要もない。かわいがって頭を撫でたりしていたら、おっちゃんたちも私にいろいろ構ってくれるようになり、そうなれば世話好きのスコッツたちである。私の拙い英語でのコミュニケーションを面倒とも思わないのか、いろいろ話しかけてくれて、とても楽しい時間を過ごせ、思えば一杯で出る予定だったのにもう一杯おかわりを頼んでいた。


(フィディックインのカウンター。よぼよぼといってもいいようなおじいちゃんが一人でやっている)

 おじいちゃんはもうかなりのお年なのだろう、よぼよぼした印象を受けたが、実際はかなりしっかりしているようで、私が話すでたらめな英語に対して周りのおっちゃんたちが「???」となっているところに、おじいちゃんが「〜ってことを言いたいんだろ」みたいな感じで、皆さんに翻訳してくれたりもした。
 カウンターの向かいには暖炉があって、実際に薪がくべられて温かくなっていた。

 口々に好き勝手なことを言って笑い合ったり、私に「俺はサムライが好きだよ」と言ってみたり、屁をこいて臭い臭いとおどけてみたり。それぞれがバラバラのようで一つのような空間で、時の流れがゆっくりと見えるパブだった。

 じっくりパブリックハウスを楽しんだ後は、クリゲラヒーもうひとつの有名バーのある、クリゲラヒーホテルを目指します。

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