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キースのクーパレッジへ

2012.05.02

 ストラスアイラを出てストラスミルへ向かう途中。川沿いをてくてく歩いていると、なにやら大量の樽が積まれている場所が。

 そういえば、宿のおっちゃんに「蒸留所巡りに来たんだー」と言った際「そりゃあいい。この町にはクーパレッジもあるから、そこも見てきたらいいさ」と言われていたのを思い出し、なるほどこれがおっちゃんの言っていたクーパレッジなのだな、と周りを徘徊。


(「The Isla Cooperage」というのが会社の名前らしい)

 中からは作業の音が大音声で漏れてきている。ちょうどよく出てきたおっちゃんがいたので「イズ・ディス・クーパレッジ?」みたいなことを聞きつつ「見ていー?」と。意外にも「OK、OK」と気軽な感じで招き入れてくれて、小走りでおっちゃんのもとへ。


(樽は様々な蒸留所から届いているようだった)

 どんどん奥まで案内してくれて、ざっと所内を一周。機械の騒音もあって活気に溢れているようにも見えたが、みんな黙々と作業しているようで、ホントに職人さんという印象を受けた。


(左のおっちゃんが最初に案内してくれた。ロッホランザって書いてあるからアランの物か)

 一周見終わったら「あとは勝手に見てていいよ」みたいなことを言っておっちゃんは去る。お言葉に甘えて工房内を見学させていただく。


(機械音やハンマーでタガを打つ音などで、とても大きな音が響いている工房内)


(一人一人の職人さんが、樽を運んできては自分の持ち場でこつこつと樽の修繕に取り組んでいました)


(隅っこの機械では、樽にはめるタガの修理も行われていた)

 しばらく工房内をうろちょろしていると、今度はまた違うおっちゃんが近づいてきて「こっちについてきな」みたいな感じでジェスチャーをする。おっちゃんに案内されるままついていくと、まずは表の樽置き場へ。


(こちらに並んでいるのはまだ修繕前の樽たち。ここから一つずつ工房内に持って行って修理をします)

 「こいつは俺の友達だよ」と、その場にいた職人さんを紹介してくれた。「どこからきたの?」と聞かれたので「日本から」と答えると「おーおー!」言ってなにやらテンションが上がっている様子。はて?と思いつつ話を聞くのだが、なにを言っているかがよく分からない。英語が理解できないというのもあっただろうが、単純に作業音がうるさくて聞き取れなかった、というのもあると思う。とりあえず「俺は日本に行ったことあるぜ」みたいなことを言っているのだということだけは分かったので「なにしに?」と訊ねると、空手のようなジェスチャーをしながら「ショーリンジ!」と。
 少林寺は日本じゃなくないか。。?と思いつつも話を聞き続けていると、おっちゃんは右手の指でカウントしながら「イー、アル、サン、スー!」言い始めたので、完全に勘違いしていることを悟った。まぁ訂正はしなかったけど。

 そんなこんなで、数ある樽の中から一つを選ぶと「これはサントリーの樽だぜ」と教えてくれる。どこまで日本と中国がごっちゃになっているのかは分からなかったけど、サントリーが日本の企業だってことは認識されているらしかった。
 近づいて香りを嗅ぐと、むせ返るような樽香の中にほのかに甘い香りが。「ちょっとまってな」とおっちゃんは私に言うと、すぐ裏手の山の斜面へ分け入り、かと思ったら何かを拾って戻ってくる。
 おっちゃんが手にしているのは、なにか清涼飲料水のペットボトルで、裏山に捨ててあったそいつを拾ってくると、雑に手袋をはめた手で飲み口を拭うと、樽の底に残っていたウイスキーをそのペットボトルですくってみせる。
 いやいや、それさっきまでそこに捨てられてたペットボトルですやん。泥まみれですやん。思うも、彼が先に一口飲んでみせ、それを私の方によこしたものだから、これはもう飲むしかない。衛生観念的な意味ではかなり抵抗があったのだが、こんなところで樽に残ったウイスキー飲めるなんて、そんなに出来る経験でもあるまい。ポジティブに捉えることにしてグビッと飲む。
 口に含むと同時に、樽の細かい木片も一緒に口の中に入ってきて木の感触が広がる。これがホントのノンチル・ノンフィルターのカスクストレングスか、とかどうでもいいことを思った。
 一口飲んでおっちゃんにペットボトルを返すと、おっちゃんは笑いながら再びペットボトルを裏山に放り投げていて、こっちも笑った。

 工房内に戻ると「ちょっと待ってな」と外から樽を一つ運んできて作業開始。
 まずはブラシで表面をこすって汚れを落とし、傷のあるダメなところにチョークで印をつけていく。印を付け終わったら樽に嵌っているタガを一つ一つカンカン取り外し、一番上のタガ以外は全て外したところで、今度は先ほど印を付けた木片だけを器用に取り外して、ダメなやつは近くの山に積んで、他から持ってきた木片を樽にあうように削ったりしてトリミング。あっという間に樽に合わせて、再びタガをはめてフィニッシュ。
 一つの樽を修理するところを一から全て見せてもらってとても興味深かった。最初からケータイでムービーを撮らせてもらっていたのだが、一つの樽を修繕するのに要した時間はわずか10分足らず。ホントに職人さんという感じでかっこ良かった。

 たまたま見つけたクーパレッジでとてもいい経験ができてとても満足でした。


(最後に職人さんと握手を交わした手。樽の汚れで真っ黒になりました)

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