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フェスの終わり。それと、アイラのパブ

2012.06.03

 アイラ島で過ごした10日間も今日で終わり。フェスのプログラムも前日には全て終了しており、しかもこの日は日曜日。バスも走っていないし、予定もまっさら。折角なのでゆっくりと、アイラ島の風景を楽しむことにします。

 ホステルにたくさんいたフェスの客も、この日にはほとんど島から出て行ってしまうようで、朝方から大きな荷物を背負っている人でロビーはざわざわとしている。
 そんな中、私と同室のザックの出立日は明日。二人してのんびりしながら「今日どうする?」と相談していると、ザックが「写真を撮りたい」と言う。「どんな?」と窺うと「The glass of god」と。
 彼は、自分の国でウイスキー関係の雑誌のライターもしているらしく「このきらきら輝くアイラ島の浜で、ウイスキーグラスを太陽に掲げた写真を撮りたいんだ!」と熱弁を振るう。私も、その意図は充分に分かるし、なによりザックが楽しそうなのでそれに付き合うことにして、二人してグラスを片手にホステルの裏に広がるビーチへ行きます。

 グラスに、ラフロイグで貰ったカスクのミニボトルから中身を注ぎ入れ、準備は万端。ザックはすっかりライター然とした指示で「こんな感じで撮って!」と私に指示を出し、私もなるべくいい雰囲気の写真が撮れるように努力する。

(その時に撮った一枚。ラガヴーリンのグラスに刻まれたロゴもかっこいい)

 しばらくあーだこーだ言って撮影をして、彼も納得のいく一枚が撮れたよう。余談ですが、この時私が撮った彼がグラスを掲げる写真が、今でも彼の働いてるウイスキー系雑誌のfacebookアカウントのアイコン写真となっている。なんとなく嬉しいものです。

 撮影を終えると、また二人ともすることがなくなる。一瞬「泳ぐ?」なんて意見も出たけど、この日は天気がいいわりに気温は低く、風も出ていて泳ぐには少し寒い。結局レンタサイクルが開いているのを発見したので、私は自転車を借りてポートエレンの方まで行ってみることに。ザックはザックで「ミニマーケット行こうかな」とか言っていたので、一旦彼とはここで別れて、別行動にうつります。

(素晴らしい景色)

 ポートエレンまではバスで何度も行っているのだけれど、せっかく自転車で行くのだからと、バスでは通らない道を選んで進みます。

(ハイランドキャトルのようなもっふもふの牛以外にも、ホルスタインのような牛もいる)

(途中にはピートの採掘場も)

(これだけ天気がいいとピートもすぐ乾きそう。でも雨が多い日はどうしてるんだろう…?)

 ポートエレンまでは自転車で3時間ほど。のんびりと風景を楽しみながらポートエレンに到着すると、そこでも特に用があるわけではない。
 同じようにゆっくり散策してポートエレンを満喫すると、今度はボウモアの町へ向かって自転車を走らせます。

 ボウモアに到着すると、まだ行ったことのないパブへ行こうと、ハーバーインへお邪魔します。

 カウンターでエールを1パイント注文してそいつをぐびぐび。自転車をこいできたものでビールもすすみます。
 すると、そんな私の様子を見ていた隣のおっちゃんが「お前、今日サイクリングしてただろう?2回も見たぞ」と笑いかけてくる。「喉乾いちゃってさ」と、こちらも笑い返すと、今度はカウンターの中のお姉ちゃんが「昨日はアードベッグで旗振ってたわよね」と。「君も昨日アードベッグにいたんだ」と、驚きまじりに返すと、今度は後ろに座っていたおばさまが「私はポートエレンで見たわ。踊ってたわよね」と、フェスのテイスティングイベントの後に行われたパーティの時のことを言ってくる。
 いくら小さな島とはいえ、たまたま入ったパブで私の目撃談をたくさん聞かされるというのは中々無い体験です。東洋人の若者も珍しいのかもしれませんが、この旅に出てから髭を剃っていなかったこともあって、この頃は髭もじゃ。そんなルックスも相俟ってみなさんの印象に残ったのかもしれないと考えると、無駄に無精髭を生やしていたわけでもなかったなーと得した気持ちになります。

(ハーバーイン店内の様子)


(黒板に書かれたメニューにはオイスターの文字も)

 みなさんとの会話も弾み、とても楽しい時間を過ごさせていただく。おっちゃんは「この店は日本にもあるよ。たしかヨコハマだったかな?」というようなことを言っていた。
 短い滞在時間だったが、こうしてフレンドリーにしてくださる方々と出会うと、ホントに離れがたくなる。
 最初にも書いたが、この日はもうフェスも終了した翌日。フェスの客はどんどん島からいなくなっていて、昨日までの賑やかな表情が嘘のように、静かな穏やかな島の生活に戻りつつある。フェス中の狂騒の表情しか知らない私にとって、そののんびりした雰囲気はどこか違和感があるのだけれど、島の人々にとってはこれこそが普段の生活なのだろう。

 ほどなくおっちゃんたちがまず先に、それを追うように私も店を出て、私は自転車をこいでポートシャーロットへ向かいます。おっちゃんの家はすぐそこだったようで、私が自転車を漕いでいるのを三度発見したおっちゃんは、わざわざ家のドアを開けて「ハバグッデイ!」と声をかけてくれた。私もそれに親指を立てて笑顔で応えます。

 ポートシャーロットから帰ると、そのままロッホモールの方まで行き、そこにあったレストランでマカロニチーズを食べ、夕方5時を待ってホステルに戻る。シャワーを浴びて、洗濯物を乾かし、ザックの帰りを待ちます。
 別に待つ義理は無いのだけれど、ここでの生活するうちに「その日の日程が終わったら二人でロッホインダールのパブへ行く」というのがお決まりのようになっていて、折角の最終日なのだから、という想いもあって、しばらく待つことに。
 6時半を過ぎても帰ってこず、先に行ってようかなー、と思い始めた頃に帰ってきて、帰ってくるなりへとへとで「疲れたー」とベッドに座り込む。
 「どうしたんだい?」と訊ねると、彼は少し興奮したように「ピート採掘してきたんだよ!」と写真を見せてくれた。
 なんでも、ちょうどピートカッティングの現場に遭遇することが出来たらしく、実際にピートを切り出す経験をさせてもらえたとのこと。うらやましいなー、いいなー、と言っていると、彼は彼で「経験できたのは良かったけど本当に疲れたよ。2時間も作業してたんだよ!?」と、軽い気持ちで経験するつもりががっつり手伝わされたらしく疲労困憊しているようだった。
 確かに、経験はしてみたいが、ザックの疲れっぷりをみるとかなりの重労働であることは窺い知ることが出来る。それでも少しく残念だな、と思いつつ「少し休んでから行く」というザックを残して、私はロッホインダールのパブへ。

 ホステルから徒歩圏内のパブは、こちらのパブともう一軒、ロッホシャーロットホテルのパブがある。私は、初日に両方のパブに顔を出してみて、気に入った方のパブに、このアイラでの滞在期間中、毎日顔をだそう、と決めていた。その結果、このロッホインダールのパブにかれこれ10日間通い詰めたわけである。
 すると、やはり顔見知り感というか、お店のおっちゃんにもお客さんにもなんとなく顔が知れるわけで、そうなればきっと楽しいだろうな、と思ったのだ。

 このパブに来るのも最終日になってしまったこの日。すっかり顔見知りになった店のおっちゃんやお客さんと楽しく時を過ごすことが出来たのはホントによかった。客の一人であるおっちゃんには「明日帰るんだ」と言ったら「ちょっとこっちきな」と店の外に連れ出され、なにごとかと思ったら懐からスキットルを取り出し、私のグラスにウイスキーを注いでくれて、ウインクして中に戻っていった。流石に酒の持ち込みはまずいのだろう。店の酒を一杯おごってくれるのも嬉しいのだが、そうやって自分の懐から出した酒を私に一杯くれたっていうのが、またたまらなく嬉しかった。

(ロッホインダールのパブはバックバーを表裏一体にして2フロアに分かれている。こちらのフロアはどちらかというと食事とかする人用みたい)

 アイラでの日々を思い出すついでに、ここでアイラのパブをいくつか紹介しようと思う。

(アイラの初日を過ごしたバリーグラント・インのパブ。子供や犬も普通に店内にいるのが面白かった)

(ボウモアにあるロッホサイドホテルのバー。アイラ産のモルトが蒸留所別にバックバーに並んでいる)

(この日はボウモアのオープンデイ。さっそくフェスボトルも黒板に登場していた)

(これはボウモアホテルだったかな…?ここのお兄ちゃんに「brewery」の発音を直された)

 (これはロッホインダール。この日は土曜日で、サタデーナイトが大盛り上がりだった)

 と、どのパブもそれぞれ魅力的。店のみなさんと仲良くやっていると、疲労をある程度回復したザックもやってきて、アイラ島最後の夜はゆっくりとすぎていきました。

(ロッホインダールのパブのおっちゃんが、最後に「これもって行きな」とプレゼントしてくれたブルイックラディの水差し。宝物です)

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