MENU

113. キングスバーンズ / Kingsbarns

2017.1.24

 朝一の飛行機でエディンバラ空港に到着した私。久しぶりのスコットランドに感傷に浸る暇もなく、空港から出ているバスに乗り込み、向かうはバスで2時間半ほどの距離にある町、セントアンドリュースです。

 ゴルフ発祥の地と言われ、ゴルファーにとっては聖地のような場所とのことですが、残念ながら私はゴルフには興味がない。ならば、なぜこの町に来たかというと、そう。この町近辺には2012年以降にできた新興の蒸留所が2箇所もあるんですね〜。というわけで、最初に向かうはその内の一つ、キングスバーンズ蒸留所。セントアンドリュースからはさらにバスに乗り、20分ほどいったところにあります。

 比較的蒸留所に近い場所にバス停がある、という情報だったのですが、この日はたまたま道路工事が入っているとかで、その前の駅までしかバスが行かないとのこと。なんと。結局そこで降りて、バスの運転手さんに「蒸留所まで行きたいんだけど」「ここまっすぐだよ。30分くらいかな」と。

(一本道なので迷うことはないですが、思いの外歩いた。この看板からも10分くらいは歩いた気が。。)

 事前調査によると、閑散期の1月はツアー時間が11:30、13:00、14:30の三回のみ。この日はもう一箇所蒸留所を回る予定だったので、なんとしてでも初回のツアーに間に合わないといけない。そもそも、すでにネットでツアーの予約はしているし。結構早足で道を行きます。

(ん?建物が見えて来たけどあれかなー?)

(はい、到着です。煙突一つないまるで蒸留所らしくない外観)

 11時半ぎりぎりくらいのタイミングで到着したのだけれど、どうやら他にお客さんはいない様子。プライベートツアーかなーと思いながらもビジターセンターのドアを開けようとすると、なぜかドアがロックされている。あれ?おかしいな?としばらくガチャガチャやっていたら、すぐに中にいた職員の方が気付いて開けてくれた。「あら、ごめんなさい。開けるのを忘れてたわ」なんて。

 その後、すぐにもう一組のお客さんが来て、私含め3人でのツアーのスタートです。


(2014年にできた蒸留所。ニュースピリッツをリリースしてはいるが、当然ウイスキーはまだ)

 ここで、キングスバーンズ蒸留所の基本情報をお伝えしておきましょう。
 ボトラーズブランドとしても有名な地元の豪族、ウィームス家によって2014年に設立されたこの蒸留所。なんでも発端は、ゴルフでラウンドを終えたメンバーが"19番ホール"で一杯やっていた時の会話だそうで。というのは、前述の通り、セントアンドリュースはゴルフの聖地。世界各国からゴルフをしにやってくる人が後を絶たないわけですが、そんな人たちからすると、せっかくスコットランドまで来たのだから、ゴルフの他にも何か楽しみたい。スコットランドといえばウイスキーだろう、どこか蒸留所にいけないだろうか、と。
 この話を聞いていたのが、リンクスでキャディをしていたダグラスさん。当時、リンクスから一番近い蒸留所といえば、車で2時間足らずはかかるアバフェルディ蒸留所。19番でウイスキー蒸留所のことが話題になるたびにそちらを勧めていた彼ですが、ある日「ないなら作っちゃおうぜ!」というその場のノリで、ダグラスさんを中心に蒸留所建設構想が練られます。
 しかし、如何せん大きなお金のかかる事業。ダグラスさんもどうしようかと困ってしまって、そんな時に閃いたのが、地元のクラン、ウィームス家に話を持っていくことでした。当時、ウイスキーのボトラーズとして名を馳せていたウィームス家にとってもこの話は願ってもいないことだったようで、彼の事業に全面的に協力。今ではダグラスさんは広報担当として、ウィームスの経営を支えております。
 ちなみに、全く蒸留所らしくない建物は、元々農家だったもの。ダグラスさんが蒸留所を建設するのに適当な場所を求めて奔走していた時に発見した、イースト・ニューホール・ファームという農場の跡地です。

 そんな蒸留所の出自を知っていた私。「へっ。金持ちが金持ちのために作った蒸留所け」と、とんでもなくバイアスのかかった姿勢でツアーに参加。なんだか、一緒にツアーを回ることになったカップルまでも金持ちに見えてきます。

(ツアーの入り口には密造時代のスチルの展示が)

 ツアーは10分ほどの蒸留所紹介ビデオからスタート。簡単なウイスキー製造の手順や、この蒸留所の歴史を学んだ後、製造棟に向かう前にエキシビジョンの案内を受けます。

(「鳩小屋」を意味するデュカットと呼ばれる部屋。農場時代には鳩が住み着いており、その様子を再現したんだそう。部屋の中心には2015年3月に詰められた蒸留所の第一号カスクが鎮座している。か、鏡板が金ピカだ。。さすが金持ち。。)

(フローラルやらシトラス、スモーキーなど、ウイスキーのアロマを体験できるコーナーも。容器にはハイランド牛の角が使われている。さ、さすが。。)

 エキシビジョンでのインタラクティブな体験の後は、ついに製造棟へ移動します。
 製造棟は、糖化から蒸留まで全ての設備が詰まったコンパクトな部屋。マッシュタンもウォッシュバックも全てがスチール製で、近代的な作りになっています。


(マッシュタンとウォッシュバック。ウォッシュバックは全部で4槽)

(ぶくぶくー。元気にかもされています)

(スチルは最小の2基。どちらもいわゆるランタンヘッド型です)

 2度の蒸留でスピリッツは72度まで高められ、樽詰め時にはそれを伝統の63.5度まで加水調整をしているんだそう。製造棟の後は、ビジターセンターに戻り、試飲のお時間です。

 試飲メニューは、キングスバーンズのニューメイクを一杯と、ウィームス社プロデュースによる3種のブレンデッドモルトから1種を選んでの計2杯。この日は通常の3種、ハニー系の甘味を強調した
「ザ・ハイヴス」、名前の通りの「スパイスキング」、そしてやはり名前から味わいの想像できる「ピートチムニー」の他に、チムニーよりさらにピート感を増した「キルンエンバース」も選ぶことができた。
 いわゆるクラシックなローランドモルトを目指した、というニューポットは柔らかい麦感にハイビスカスのようなゴージャスなフローラル。シトラスにナッツもあり、なるほどこれがローランドらしさかという印象があった。

 試飲をしながら、一緒にツアーをしていたカップルとおしゃべり。端々に金持ち的ワードがちりばめられており、なるほど。やはりそうだったか。もうなんか蒸留所のレポというか僻み根性の発露というかそんな感じですね。ゆっくりとお話ししたい気持ちは山々なんですが、私、そろそろ次の蒸留所に向かうバスの時間なんで。バス、逃したら大変なんで。そんな感じでそそくさと蒸留所を後にします。

#Kingsbarns

この記事を書いた人