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バーンズナイト in エディンバラ

2017.1.25

インチデアニー蒸留所の見学を終えた後は、バスで1時間ほどかけてエディンバラに帰ります。そして、この日は1月25日。みなさんご存知の通り、スコットランドが誇る国民的詩人、ロバートバーンズの誕生日で、毎年彼の偉大さを讃えるためのイベント「バーンズナイト(バーンズサパーとも)」が行われます。都内でも、一部のお店などでは開催されているところもありますが、まだまだマイナーなイベントと言えるかと思います。しかし、そこはすっかりスコットランド大好きおじさんとなっていた私。いつかは本場のバーンズナイトで『蛍の光』熱唱してウイスキーで乾杯したいなぁ、と思っていたのですが、さすがにこのイベントに参加するためだけのために、こんな真冬の観光にそぐわないシーズンに行くのは辛い。まぁ老後の楽しみかなぁ。くらいに思っていたのですが、ダブリンからならわずか1時間でこれる距離。こりゃ行かないわけにはいくめぇ!ひゃっほう!というわけで、念願果たして、本場のバーンズナイトに参加です。

(バーンズナイトに備えて、肉屋の店頭には大量のハギスの山が)

(帰ってきたぜエディンバラ!月並みな感想ですが、ホントかっこいい街ですよ)

さて、エディンバラについてまずすべきことはパブ巡り。やはりバーンズナイトのメニューを貼り出しているパブなんかも多く、そんな貼り紙を見るだけでもテンションは上がっていきます。店によっては、事前に予約が必要なところもあり、軽く探ってみたお店なんかでは「今夜はフルブックだよ」とすげなく断られてしまいました。今回は、幸いながらエディンバラ在住の友人と会う約束をしており、オススメのパブに連れてってくれるというので、そこは一安心して、バーンズナイト当日の街の様子を楽しみます。

待ち合わせの時間になり、事前にお知らせいただいていたそのパブへ向かいます。いわゆるコッテコテのパブというよりか、レストランなんかも兼ねたようなちょっと小洒落た空間。きっちりナイフ&フォークが用意されているような席に案内され、まずは久しぶりに会う友人と談笑しながらベルヘイブンで乾杯。やーやー言いながら、食事もハギスを注文します。

(出てきたのは想像をはるかに超えるオシャンティーな一皿)

オーダーの際「うちでハギスを使ったメニューはこれしかないよ」みたいに確認されたのだけれど、まさかこんな感じで出て来るとは。。

(中央のパイにナイフを入れてみると、ご安心ください、ハギスですよ)

なんかマッシュポテトも洒落てるし、ソースも野菜の風味豊かだし、パイはつやつやして美しいし、こいつは美味しい。ベルヘイブンとの相性もいいね。ただ、ただね。違う。いやいいんだよ。でもね。今日。バーンズナイト。この店の雰囲気。蛍の光も。キルト履いたおっちゃんも。バグパイプの音色もない。いいんだよ。そういうベッタベタのやつが欲しいんだから。ください。ベッタベタのやつ。
まんまと「地元の人がお勧めするいい店は普通にいい店で観光客のそれからするとちょっとずれる」現象にはまってしまった私。あれはアウターヘブリディーズのある島に行った際、パブで知り合った地元の方にオススメのレストランを聞いた際、「あそこのカレー屋は絶品だ。何食べても美味い」って勧められた時の感じに似てます。いや、美味いんだろうけどさ。そうじゃないじゃん?みたいな。

そんなこんなで、久しぶりに会った友人と、美味しい食事と楽しい会話を存分に楽しみ、非常に充実した時間を過ごすことができたのですが、なんとなくモヤっとした気分が残ります。9時過ぎには友人と別れ、私は一人ふらふらとロイヤルマイルをさまよいます。
すると一軒の店からバグパイプの音色が。つられるように飛び込むと、まさに今ハギスが運び込まれているところじゃないですか!

(運び込まれたハギスを開き、「ハギスに捧げる詞」を朗読する)

そうそうこれこれ!私が欲しかったのまさにこういうやつ!思いながら、混雑する店内を無理くりカウンターまでたどり着き、テネンツを一杯頼みます。
テーブルは満席、カウンターも席は埋まっており、立ち飲みを余儀なくされたわけですが、店内の黒板には「バーンズナイトサパー特別メニュー」が書かれており、スープからメイン、デザートにウイスキーが一杯ついて確か20ポンドとか。すでにお腹は膨れていましたし、この狭いスペースで食べることができるかも分かりませんが、ダメ元で「あの黒板に書いてあるメニューってまだやってる?」と尋ねると、オフコースで頼むことができました。

(スープはご存知カレンスキンク。美味い)

(そしてハギス。マッシュポテトとターニップ、そして肉々しい質感のハギスにグレービー?とリークが散らされている。美味い美味い)

(デザートはなんたらプディング。温かい蒸しパンのような感じ。美味い)

ちなみにメニューについてきたウイスキーはブラックボトルでした。
もうお腹はぱんっぱん。もうあかん。さすがに食べ過ぎた、みたいな感じでお腹をさすりながらウイスキーをちびちびやっていると、オーダーにやってきたジェントルメンに話しかけられる。「この店にはよく来るの?」「まさか!俺は観光客だよ」「そう?なんか飲み慣れてるように見えたから。よかったら一杯おごるよ、君と飲むのは楽しそうだ」とサクッとナンパされて一杯ご馳走になる。なんでも、私が立っていたカウンターのすぐ後ろのテーブルで飲んでいたらしく、私が人混みかき分けて店内に入ってきて、さくっとカウンターに自分のポジションを確保して、メシまで食べていたのが面白かったらしい。彼のテーブルには、彼の奥さんと、やはりこの店で知り合ったというブラジリアンカップルの4人がおり、どこから手に入れてきたのか私に椅子を与えてくれてとりあえず乾杯。お互い、簡単な自己紹介をした後であーだこーだとお話。年齢も経歴も、もっと言ってしまえば国籍や言語まで違う人々が、あっという間に友達同士になってしまう。私が好きなパブという空間のお手本がそこにあり、その一員として自然に受け入れられたことがとても嬉しかった。

ほどよく『Auld Lang Syne』なんかも演奏され、気分は最高潮。歌って、飲んで、笑って、飲んで、で気が付けば閉店の時間まで過ごしておりました。

(入るときは気付きませんでしたが、こちらバーンズナイトを過ごすのには最高なパブの一つだったんじゃないでしょうか?)

店を出て、ホテルへ向かう2組を見送り、私はというとまだ開いていそうなウイスキーバーでさらに一杯やり、そこも閉店となるタイミングで深夜バスを捕まえて、エディンバラ空港へと向かいます。翌朝8時の便でダブリンに帰る予定。ホテルを取ってもゆっくりできそうにないので、今夜も空港泊です。余談ですが、この日前後は、スコットランドが生んだ不朽の名作『トレインスポッティング』の続編が全英公開された日。空港へ向かう深夜バスのバス停では、明らかに「そんな感じのやつら」がもう正体も分からないくらいにズタボロになっており、すげー怖かった。ただ、すでに「呼吸する反吐」みたいになって地面を転がっている彼らの後ろには『T2』のオレンジ色の街頭広告がでかでかと輝いていて、なんつーか。なんつーか。最高にキマってんな。と思いました。

そんなこんなで「スコットランドらしさ」を身体中で浴びてきた1泊3日の旅行。バーンズナイトで感じた多幸感はやはり素晴らしいものがありました。ぜひ皆さんも、チャンスがあれば、訪れてみることをオススメいたします。

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